データ活用

2021-12-20

ダイナミックマップを徹底解説 自動運転を支える技術の開発状況

近年における DX の進展の中でも、 AI やセンサー技術の進化とともに、自動運転が注目されています。特に、膨大な情報を集約したデジタル地図である、ダイナミックマップが重要なカギといえます。国家プロジェクトでもあるこの技術は、自動車メーカーの将来を左右します。今回の記事では、ダイナミックマップについて、わかりやすく解説します。

ダイナミックマップとは

「ダイナミックマップ」とは、自動車専用道路や高速道路での安全性を伴う自動運転を可能にするためのデジタル地図のことをいいます。精度が高い 3 次元の地図情報や、交通規制や渋滞などの位置情報といった、さまざまな情報を集約するのが特徴です。時間の経過に対して、変化がほとんどない「静的データ」である構造物や車線、路面などの 3 次元情報と、時間の経過とともに変化する、位置特定が可能な「動的データ」を集約・管理します。

2021 年 3 月に発売されたホンダの新型「LEGEND(レジェンド)」が、世界初の自動運転レベル 3 を搭載して、話題を呼びました。そこには、メーカーの垣根を超えて設立された、「ダイナミックマップ基盤企画株式会社」(Dynamic Map Platform Co., Ltd.)(以下、DMP)による、ダイナミックマップの基盤が採用されています。

ちなみに、レベル 3 とは一定の条件のもとで、周辺の交通状況をシステムが監視するとともに、運転を代行することが基準となっています。その条件のメインとして、システムが緊急時など代行運転状態から外れる場合、手動運転に切り替わるため、ドライバーの運転操作が必要となります。

ダイナミックマップの構成要素

ダイナミックマップは、前述のとおり「静的データ」と「動的データ」によって構成されます。

静的データとは「高精度 3 次元地図データ(以下、 HD マップ)」を表します。動的データは周辺車両の進行状況や、渋滞、気象などの情報を時間変化の度合により、 3 階層のレイヤーに分けられます。ここでは、それぞれの情報の構成要素について、詳しく触れておきましょう。

高精度3次元地図データ(HD マップ)

静的データである HD マップは、ダイナミックマップの基盤となる情報を持ち、実に 1 cm 単位の精密さを誇る精度が高いデータであるため、その作成には莫大なコストがかかります。路面や車線の詳細情報、および構造物の位置情報を網羅する 3 次元地図です。この地図データを、車両に搭載されているセンサーやカメラと連携させて使用します。それにより、車両を囲む全方位の地形情報と、道路上の正確な位置の認識が可能です。

走行中は、前方の道路の詳細な形状をあらかじめ認識できるので、走行速度のコントロールや車線ごとの走行経路のプランニングを実現してくれます。

動的データ

動的データは、「準静的情報」と「準動的情報」、そして「動的情報」の 3 種類に分かれます。

準静的情報

予定されている交通規制や路面で行われる工事全般の情報、広域の気象予報情報などが集約されます。

準動的情報

現時点で発生している事故や渋滞による交通規制の情報、狭域の気象情報などが集約されます。

動的情報

周辺の車両や歩行者、信号などのリアルタイムの情報が集約されます。

ダイナミックマップの精度向上に必要な項目

ダイナミックマップの精度を向上させるために、特に重要だと思われる項目を挙げておきましょう。まず、デジタル地図の精度を最大限に活かした自車位置の想定や、車線中央のトレースによる車両コントロールの安定性の向上が求められます。また、悪天候や強風などの気象要因により、センサーが周辺を認識しにくい場面での適切な情報の提供が、高速道路向けの自動運転システムおよび「ADAS(先進運転支援システム)」をサポートすることです。

ほかには、高速道路だけではなく一般道においても、高精度 3 次元地図によって車線中央をトレースできることや、複数の信号機が搭載しているセンサーの感知範囲に入る際の認識サポート、右折の際の車両コントロールの高度化などもあります。

一般道に高精度3次元地図の領域を拡大するにあたって、大きな課題となるのはコストです。たとえば、日産の技術「プロパイロット 2.0」を利用する場合には、コネクテッドサービス「Nissan Connect(日産コネクト)」への加入が必須となり、 2 万 2,000 円の年会費が発生します。プロパイロット 2.0 非対応の場合の年会費と比べて、 1 万 7,600 円も高くなってしまいます。

この差額は、高精度 3 次元地図を無線ネットワークによって、情報更新する時にデータ量が膨らむことへの対応や、デジタル地図のメンテナンスを全国で継続するために設定されているものです。そのあたりが、普及面での今後の課題の一つとなりそうです。

ダイナミックマップをめぐる日本の狙い

ダイナミックマップを構成する要素である、静的・準静的・準動的・動的という4種類の情報は、「戦略的イノベーション創造プログラム」(以下、 SIP)が提案し、 2016 年 2 月に国際規格(ISO14296)として認められました。 SIP は、首相を議長とする国家プロジェクトで、産業競争力の要となる科学技術イノベーションを実現するために設立されました。

日本がこうした取り組みを行っている狙いは、今後確実に普及していくと想定される自動運転のマーケットにおいて、確固たるポジションを確保するためです。その旨は「官民 ITS 構想・ロードマップ 2019」で公表されています。その中の重要戦略の一つが、日本発信のダイナミックマップをグローバルスタンダードとするアプローチです(参照元:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20190607/siryou9.pdf

その戦略の中核をなすものこそ、 DMP で資本参加している各社が、独自に動的データを制作および販売を行います。同社は日系自動車メーカーおよびゼンリン等の地図会社、車載用測量装置を手掛ける三菱電機の出資により、一致協力して日本の高精度地図を整備する目的で発足したものです。

国内事例

ダイナミックマップを活用した自動運転車の製造は進んでおり、国内でもすでに発売されて実用化している車種がいくつかあります。それをインフラ的な部分で可能にするものこそ、 HD マップの整備の進展です。

2023 年度には HD マップが実用化

DMP の 2021 年 4 月の発表で、国道や主要地方道も含めた主要一般道にて、 HD マップの整備が始まることを明らかにしました。

すでに同社による高精度地図は、国内の高速道路を網羅しているほどのレベルです。日系自動車メーカーのハンズオフ対応を可能にする ADAS での採用実績も積みつつあります。

一般道に高精度地図のカバーする範囲が広がることで、高速道路以外のロケーションでも、 ADAS を活用する基盤を構築できるのです。このように、 2023 年度には国道において、 2024 年度には主要地方道に領域を広げて、 HD マップが実用化されることが予定されています。

同社は、 2019 年に General Motors 傘下の高精度地図会社を買収しました。そこが持つナレッジとノウハウを取り込んで、 HD マップ整備の莫大なコストを適正化しながら、カバーできる領域を広げていく見込みです。

高速道路でハンズオフドライブ

DMP の高精度地図を初めて採用した技術は、日産のプロパイロット 2.0 です。日産はゼンリンを通じて、情報が補強された地図データを使用しています。それによって、高速道路においてのナビ連動ルート走行や、同一車線内でのハンズオフ機能を、世界で初めて同時採用しました。具体的には、高速道路において走行速度や車線維持をクルマがアシストするので、ハンドルから手を離した状態で運行可能です。

ちなみに、前方車の走行速度に応じて、追い越しをクルマが提案する「車線変更追い越し支援」機能では、ハンドルに手を添えてスイッチを押すだけで、車線変更と追い越しがアシストされます。

ダイナミックマップにはデータ活用技術が不可欠

このように、ユーザーに安全性を伴う快適さを提供してくれる自動運転は、3次元の地図上に多種多様なデータが組み込まれるダイナミックマップなくしては実現不可能です。そして、ダイナミックマップの恩恵を受けるためには、データ活用技術の発展が重要です。具体的には、静的情報と各レイヤーの動的情報を網羅しつつ随時更新し、それを配信する管理機能が強く求められます。 これまでの自動運転の仕組みを理解していくと、ダイナミックマップの必要性がどんなに大きいものかわかります。先述したデータ活用技術の発展が進めば、近い将来にはレベル 3 の自動運転の、さらに上をいく技術・機能が備わったクルマの開発が期待できるでしょう。

まとめ

ダイナミックアップは、変化が少ない 3 次元地図情報と、変化する交通規制や事故・渋滞・気象などの情報を集約した、自動運転に欠かせない情報基盤です。国家プロジェクトでもある DMP のダイナミックマップの基盤によって、すでに実用化が始まっており、今後の進展が期待されています。関連する各企業は、そのためのデータ活用技術の進展といった課題をクリアして、日本のダイナミックマップを、世界基準にするための奮闘に余念がありません。

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