データ活用
2021-10-11
データ活用
2021-10-25
農業分野は就業者が年々減少傾向にあり、労働力不足と生産量の減少が深刻化しています。そんななか、農業構造そのものに大きな変革をもたらす概念として注目を集めているのが「農業 DX 構想」です。データを農業に活用してさまざまな課題解決を図りたいと考えるなら、農業 DX 構想に触れてみませんか。
近年、さまざまな企業が喫緊の経営課題として挙げるのが「DX」の実現です。 DX とは「Digital transformation」の略称で、「最先端テクノロジーを活用して経営体制そのものに変革をもたらし、市場における競争優位性を確立すること」と定義されます。この DX を農業生産に取り入れようと誕生した概念が「農業 DX 構想」です。農業 DX 構想は、国内の農業が抱える構造的な課題や問題を解決するべく、 2021 年 3 月に農林水産省によって取りまとめられました。
農業 DX 構想とは、簡単に言えば「農業生産のデジタル化」です。ドイツ国内で政府主導のもと推し進められている「インダストリー 4.0」に代表されるように、製造分野では AI や IoT といった最先端テクノロジーの導入が進んでいます。しかし、農業分野ではこれほど大きな変革は広がりを見せていません。農業の目的のひとつに、国内に食料を安定的に供給するというものがあります。しかし、 2019 年度の日本のカロリーベース食料自給率は 38% と、 60% 以上を輸入によって賄っています。このような背景から、デジタル技術を活用して農業生産の在り方そのものに変革をもたらし、さまざまな問題解決を図るべく、農業 DX 構想が推進されているのです(参照元: https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/012.html)。
人口減少と少子高齢化に伴う労働力不足も、農業 DX 構想が推進される理由のひとつです。日本の総人口は 2008 年の 1 億 2,808 万人をピークに下降の一途を辿っています。また、同時に総人口に対する高齢化率が年々上昇しているのも大きな問題です。総務省の調査によると、 2020 年 9 月時点の総人口は 1 億 2,562 万人であり、その内、 65 歳以上の高齢者数は 3,617 万人と総人口の 28.7% を占めています。
このような社会的背景から、さまざまな産業において人材不足が深刻化しているのが国内市場の現状です。なかでも農業分野は就業者そのものが減少傾向にあるため、人材不足が非常に深刻な問題となっています。農林水産省の調査によると、 2000 年に 389 万人いた農業就業者が 2010 年には 261 万人と約 22% 減少し、 2020 年には 145 万人とさらに大きく減少しています(参照元: https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/15/dl/1-00.pdf、 https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1261.html)。
人材不足によって後継者も不足しており、同時に耕作放棄地の増加といった問題も顕在化しています(参照元: https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h22_h/trend/part1/chap2/c3_02_01.html)。農業就業者の大幅な減少により、従来のような人手に頼る農業構造が、近い将来、限界に達するのは明らかでしょう。少子高齢化や労働力不足といった問題を解決し、農業が発展していくためにはデジタル技術の導入による自動化や省人化が欠かせません。このような現状も相まって、農業分野では最先端テクノロジーの活用による農業 DX が求められているのです。
農業 DX の意義と目的は、農業のデジタル化によって社会に新たな発展をもたらすことです。テクノロジーの活用によって農業構造に変革をもたらし、市場価値を提供する生産体制の構築は急務といえます。
日本は資源や原料を海外から輸入し、それらを加工・製品化して輸出することで大きな経済成長を遂げました。エネルギー資源に乏しい島国でありながら、製造と貿易によって 1968 年から 2009 年まで世界第 2 位の GDP を維持していたのです。しかし、 2010 年になると GDP で中国に追い越され、さらに主力分野である製造と貿易の発展に減速の兆しが見え始めます。
ものづくりや貿易の成長に陰りが見えるなか、 1 億 2,000 万人を超える人口に食料を安定供給するためには農業の発展が不可欠です。そのためには農業の抜本的な構造改革が必須であり、最先端のデジタル技術を取り入れて作業の省人化と自動化を実現し、新たなビジネスとしての生産体制を確立する必要があります。それが農業 DX が推進される理由であり、目指すべき目標なのです。
ここからは、農業 DX によって解決を目指す課題について見ていきましょう。
農業 DX では、いかにして農業の生産現場をデジタルシフトしていくかが重要な課題になります。たとえば、 IoT やドローンといった高度なデジタル技術を導入できれば、作業効率の改善や生産性の向上などにつながるでしょう。また、 IoT と情報分析基盤を連携させ、統計解析やデータ分析を取り入れれば、効率的な栽培管理や土壌管理が実現します。しかし、こうした取り組みは普及しつつあるものの、本格的な導入までには程遠いのが現状です。
農業 DX 構想は農林水産省が推進している施策であり、さまざまな補助金や交付金制度が整備されています。しかし、こうした補助金・交付金の申請手続きは、手作業による審査となっているのが現状です。農業生産者と行政のそれぞれがデジタル基盤を構築して連携できれば、煩雑な各種手続きをオンライン上でスムーズに実行できます。しかし、そのためには農業データを統合管理し、共有・連携できるデータプラットフォームの導入が必要です。
農業生産者と卸売業者の取引をデジタルシフトするのも重要課題のひとつです。現状、一般的な農業生産者と卸売業者の取引は概ね電話や FAX で行われています。もちろん、農業協同組合とのやり取りも同様です。データプラットフォームを構築して農業データをデジタル管理できれば、こうした流通プロセスの効率化と省人化につながります。非効率的かつアナログな流通プロセスのデジタル化が、農業 DX の実現に至る第一歩といえるでしょう。
ここからは、農業 DX を実現した事例を紹介します。デジタル技術を農業に取り入れることで、どのような成果を創出したのか見ていきましょう。
茨城県龍ケ崎市にある「横田農場」は、作付面積150ヘクタールの圃場を運営する大規模営農組織です。農業 DX の推進企業であり、効率的な稲作経営を実現すべく、さまざまなデジタル技術を積極的に活用しています。横田農場にとっての重要課題は、いかに少人数で効率的に大規模稲作経営を実現するかという点でした。 10 名程度で運営しているため、少人数による管理体制の構築が求められたのです。
そこで横田農場は、栽培管理支援システムや自動運転田植え機、圃場水管理システムなど、さまざまなソリューションを圃場の運営に取り入れます。栽培管理支援システムは精度の高い発育予測を可能とし、自動運転田植え機は作業能率を大幅に改善しました。また、圃場水管理システムの導入は水量の見回り回数の削減など、少人数でも大規模な稲作経営が実現可能な基盤を構築したのです。現在、これらのシステムとデータプラットフォームを連携し、農業データを紐付けて一元管理することで、さらなる業務効率化とコスト削減に取り組んでいます。
いま農業生産者から大きな注目を集めているのが、産直 EC サイトの「食べチョク」です。食べチョクは農家から直接商品を届けてもらえる画期的なサービスとして人気を博しています。この「農家から直接商品を届けてもらえる」という点が従来のECサイトとの決定的な違いであり、産地直送ならではの新鮮な農産物を入手できるのが最大の魅力です。 農業生産者が食べチョクを利用するメリットは、オンラインの販売経路を簡単に構築できるだけではありません。最も大きなメリットは、食べチョクの運営企業である「株式会社ビビッドガーデン」に蓄積された膨大なデータを共有できる点です。これにより、より効率的かつ戦略的な商品紹介や販売が可能になります。食べチョクを通すことで、顧客との直接交流を図りつつ、運営企業との連携によるデータ駆動型農業を実現する。これにより、生産性や売上高の最大化を叶えられるでしょう。
18 世紀半ばから 19 世紀にかけて石炭を動力源とする蒸気機関が誕生し、生産の中心は農業から工業へと移行しました。 21 世紀というデジタル社会になったいま、そんな農業が社会に新たな発展をもたらす市場として大きな注目を集めています。農業 DX を実現するためには優れた IT ソリューションの活用が欠かせません。